アンドリューワイエス・クリスチーナの世界! |
やっぱり癒された。
沈黙の静けさの中の世界だが
溢れんばかりの詩情がある。
凡庸な日常の中で繰り返され
惜しげもなく与えられる自然の愛情と
自分だけという閉じた世界で
耐えることによって磨かれた感情が詩になって
風に揺れるレースのカーテンのような爽快を
送ってくれる。
初めてワイエスを見て
全身が震えるような感動がありました。
その後何度もワイエスが展示してある
秩父の加藤美術館にかよいましたが、
そんな或る日、新所沢の古本屋で
「クリスチーヌの世界」というワイエスの画集をみつけ、
興奮してすぐ買いました。
今から20数年まえで9000円でした。
私にとってはトテモ高い値段でしたが・・・。
そして残念な事に
秩父の個人の美術館も今はもう閉館してしまいました。
画集はページをめくるたびに
心をグイグイと掴れ、
静かな静かな共感のなんともいえない喜びが
体じゅうに満ちてきます。。
こんな風に
深い沈黙の世界から人間を見れたら
どんなにいいかと・・。
こんな風に鎮まりきったまなざしで
自分を見てくれる人がいたら
どんなに救いがあるかと・・。
手足に麻痺の障害を持つクリスチーナ・オルソンと
弟のアルバッロの日常が30年にわたって描かれています。
両親から姉と弟に残された
セント・ジョージ川河口にある
古い船員向けの宿屋を守りながら、
いやアルバロはむしろ
この障害を持つ姉を守ってといったほうが
いいかもしれません。
湾の丘にある美しいこの古い建物四季と
姉弟の慎ましい暮らしを
ワイエスは綴ります。
なにげな壁のくすみも
ボロボロに劣化したカーテンも
一日中ほとんどそこにいるクリスチーナのよこの
オーブン暖炉もドアに架けてある箒やぼろ布も
天井の古びたランプもみーんな
見れば、あまりに凡庸なモチーフが
まるで音楽のように語られます。
最後にはもう高齢化した姉と弟。
弟のアルバロは台所のストーブと間違えて
廊下に積んであった薪に火をつけたことから
クリスチーナが心配して
アルバロを施設にいれます。
しかしクリスマスが近づいた或る日
アルバロは施設から逃げ出し
吹雪の中を姉を捜してさまよい歩き
見つけ出されますが
クリスマスイブの晩にこの世をさりました。
姉のクリスチーナも
弟の後をおうようにその一ヵ月後に
なくなりました。
わたしたちの日々が
その平凡な毎日が
どれだけ美しく
かけがえのないものかを
この画集をめくるたびに
思います。
やさしい、やさしいまなざしの
世界です。