アンデルセンの童話より・・『・白鳥の王子たち』 |
漠然としたものしか頭にうかんでいません。
しかし、書き始めるとそこにどんどん
臨場感が湧いてきて、
最初に考えていたことから、
思いもしないようなことが
見えてきます。
親指姫の場合は
姫があまりにも頼りなく
野ネズミやのおばさんや
モグラおじさんに
いいようにされている・・・とう
親指姫の依存にイライラしましたし・・・笑!
裸の王様の時は
裸の王様がパレードしているその道端で
群衆に交じって
それを見ている自分がいました。
だから子供から「王様ははだかだ」と
指摘されたときの
王様の気持ちも、王様と同様に
詐欺にやられた大人の群衆の気持ちも
よーくわかりました。
凡庸な作家なら
権威をあばいて
教訓的な話にしたでしょうが
なぜアンデルセンはそうしなかったのかなー・・と
疑問が浮かびました。
それは人魚姫の結末の対しても
同じような疑問がわき、でも
人魚姫の時は
もうダブルバインドで
苦しくてたまらない自分がいました。
おそらくアンデルセンも
この苦しさからぬけるにはと
あがいたのだろうと思います。
だから悲劇的な結末に
「空気の精」の救いを
くっつけちゃた。しかし
アンデルセン自身のなかに
「空気の精」の正体というか原型はまだ
茫洋としていたため
最後の文章が饒舌になってしまったと
思います。
すずの兵隊の時には
なぜか、
兵士としての心構えのようなものが
物語の展開にもあり、
運命にたいしても平然としている
兵士の規律があって
ああこれはアンデルセンの男性性が獲得した
人生の処世の規律だと
すぐわかりました。
しかし彼の男性性はとても冷静で
客観的ですから、
一途にいきてゆく物語の主人公には
なりません。
主人公になるのは彼のなか女性性で
それはアンデルセンが物語を造るたびに
テーマを与え、そして
成長していく”女たち”です。
世の中を斜に構え、
じーっと外から見ている彼の男性性は
一途に突き進む女たちの姿に
啓発され学び
一方女たちは(彼の女性性は)
客観性を与えられて
徐々に、
スケール感がまし、
成長してゆきます。
さて
今日のお話の「白鳥の王子たち」の
エリーザには、
女性性の骨幹である”母性”達が
登場してきます。
慈しみ、守り、育てる母性です。
物語は、
お城で幸福に暮らしていた
11人の王子とすえの姫が
母親が亡くなり、父親の王が新しく迎えた妃により
姫は農家に里子にだされ
王子たちは、昼は白鳥、夜になると
人間へと帰ることができるという魔術を
かけられます。
王子たちと姫はいったん別れ別れになるのですが、
エリーザ(姫)は不思議な老婆から
白鳥のいる場をおしえてもらい
再び再会します。
そして兄妹一緒に
広い海をわたった美しい国へと
旅立ちます。
兄の白鳥たちは夜、人間になって
エリーザを運ぶ籠をつくり
その籠に彼女をのせてくちばしで運びます。
白鳥と一緒に空を飛びながら、
その途中でエリーザは、
妖精のモガーナの雲の宮殿という
不思議な幻想をみます。
そしてやっとその国に辿りつき
隠れ場所に洞穴で眠りについたとき
夢のなかで再び妖精モガーナに
会いにゆきます。
モガーナはあの白鳥のいる場所を教えてくれた
お婆さんにどこか似ており
彼女は、兄たちにかけられた魔法を解く方法を
教えれてくれます。
とげだらけのイラクサ(刺草)を
素手で摘み、裸足で踏んで平らにし
それをよりあわせて糸にして
その糸を編んで布をつくり
その布で11枚のシャツをつくり
それを兄達に着せれば
魔術がとける・・・という
わたしなら気絶しそうな話です・・・・笑!
そしてもうひとつ
シャツを造り終えるまでは
何年かかろうと決して
口をきいていはいけない。
もし一言でもしゃべったら
その言葉は兄達の心臓を剣のように
突きぬいて、彼らを殺してしまうだろう
というものです。
更にイラクサは墓地にしか
はえておらず
それを取りにいかなければならない。
凄い課題というか
試練というか、
彼らはただ王子と王女というだけで
なーんにも悪いことはしていないのにねえー?
エリーザはさっそくとりかかり、しかし
もう兄たちとも
口がきけません。
でもさすが兄妹
兄達は、エリーザの沈黙は
自分達にかけられた呪文を
解くためだと察します。
エリーザが一枚目のシャツを造り終えたとき
その国の王が狩りに来て
彼女が潜んでいる洞穴をみつけます。
そしてその美しい彼女を自分の宮殿へと
連れ帰ります。
王はきっとエリーザの心の美しさが見えたのでしょう
彼女と結婚しますが、
大司教は、エリーザが魔女で、王はたぶらかされたと
疑いつづけます。
結婚してもエリーザは
王が眠っている間にせっせとシャツを造り
6枚めのシャツができたところで
イラクサがきれてしまいます。
そこでエリーザは恐怖で身をすくめながらも
教会の墓地へとイラクサを
摘みに行きます。
そこでは
下半身は毒蛇で上半身が人間の
魔女の集会が開かれており、
墓石を掘り起し、死体をたべています。
ウアアー・・・コワイ!
そのそばをそおーっと
通り抜けてイラクサを
摘んで、
急いでお城に帰るのですが、
彼女に魔女の疑いを持ち、
あとをつけてきた大司教が
それをみてしまいます。
当然大司教はエリーザが魔女だと確信し
王に報告します。
それを聞いて王は泣き
ほんとうかどうか今度は自分が
あとをつけます。
そしてエリーザが墓地の鉄の門をくぐり
墓石を囲む魔女の集会を見てしまいますから
もう疑いようのない・・・と思います。
しかし
この王様はあきらめきれないのか
自分の手ではなく
国民に裁いてもらおうとします。
そして国民が彼女を魔女と断定し
火あぶりの刑とします。
しかし牢屋でもイラクサのシャツをつくることは
許され、
エリーザは最後の一枚を造り始めたところで
刑場に連れて行かれます。
続々と刑をみようと人々が集まってきます。そして
エリーザからシャツを取り上げ破こうとした瞬間に
11羽の白鳥が下りてきます。
死刑執行人に手を掴まれながら
エリーザは必死でシャツを白鳥に投げたとたんに
突然白鳥は11人のハンサムな王子達へと
姿をかえました。
ひとびとはその光景に頭を深く垂れ
王子たちは、自分達の身におきた
不思議な話を語りました。
王も民衆も心より納得し
そして宮殿へと帰ります。
その様子をアンデルセンは
「すべての教会の鐘がひとりでに鳴りはじめ、
鳥たちが群れをなして頭上を舞いました。
こうして一行は宮殿にもどりました。
それはどんな王もみたことがないような
よろこびに満ちた神々しい行進でした。」
と
結んでいます。
このお話は物語の筋の良さもいいのですが
何よりも登場人物たちの内面が
以前の人魚姫などに比べると
格段に成長しています。
逆に
下半身毒蛇で死体を食べる魔女たちは
迫力がありますが
わるい妃が
王子たちには魔術をかけることができても
エリーザにはいっこうに効き目がうすく、また
その存在もかなり希薄に描かれています。
それに比べエリーザに道を教える老婆や
魔術の解き方を教える妖精モガーナは
まるでこの兄妹たちを見守る母親のような存在に
みえます。
また王にしても
人魚姫の王子とはまったく違い
自分の意志に基づき
また自分の目でたしかめようとしたり
口をきかないエリーザの内面に
目を注ぎます。
物語全体が重層的で、
シーンのディテールにも
ことばが煌めき
好いです。
そして何よりも素晴らしいのは
あの人魚姫でかけられていた
成功禁止令や
ダブルバインドがとかれていることです。
人魚姫では、海の民の王国を捨てていく罰として
舌を切られ、言葉をうしないますが、
エリーザは成功してゆくための沈黙です。
自分の意志を通すことを塞がれ
希望を絶たれた人魚姫のことばは
ひたすら悲しみに
内向してゆくしかありませんが、
エリーザの沈黙の奥には
明らかに希望がともっています。
言葉は内向しても
ひたすら希望への
力強い意志へとむかうエネルギーに
転化され、
彼女の執念へと結ばれていきます。
この違いはなんなのでしょうか
アンデルセンに何がおきたのでしょうか
興味深いです。
言葉は人間にとって
大きな力となりますが
沈黙もときに言葉をこえて
おおきなスケールのメッセージを
産みだします。
そしてその沈黙の先には
沈黙するものだけに見えている
ビジョンがあります。
話してしまえば
うすっぺらになってしまう事も
沈黙の時間の中で
醗酵し醸造されて、
出てきたときには
なんともまろやかで
完成されたことになることは
山ほどもあります。
言葉はまき散らしたり
吐き散らしたりしてはいけない
ことばが熟すまで
はなしてはいけない!
この物語に登場する人間たたちは
それぞれが
大切な示唆をもって登場します。
最後に蛇足的にですが
今までの物語には登場しなかった
キリスト教の権威、大司教さまが
疑心の悪役として出てきます。
さらに
これまでの物語では”神様”は
登場していません。
そこらへんに私はリアリストとしての
アンデルセン、
アンデルセンほどの頭のいい人間が
大司教などに(宗教)に
屈するわけがない、
心を売渡すわけばない・・・と
思うのですが・・・・
つまり宗教的”神秘”ではなく
彼自身がリアルに感じいた人間の魂の原型を
物語にたくしてはいないだろうか・・・と
捜しながら読んでいます。
ではつぎ、
いよいよ「雪の女王」です。
うあーっ
たいへんだあー!
どうしよーっ!
牢獄の中のエリーザ!
・小峰書店発行 「アンデルセンと13の童話」より
挿絵 ジョエル・スチュワート
『伝心柱マガジン』も
やっちょります!
● 最近、ブログを書くだけで精一杯で、ちょっと疲れてきたので
コメントンに関しては、お返事を書かないことにいたしました。
でも記入はご自由にどうぞ!