ふたりのロゼッタ その1 |
ある若い女性(Aさん)に見せた。
Aさんはロゼッタに反応せず、
ロゼッタに気持ちを寄せる優しい青年<ロケ>に
強い反発を示した。
その理由を聞くと、
「自分をだまして、自分の仕事を奪った女(ロゼッタ)に対しも
なお優しい、その間抜けさに腹が立つ」
とのことであった。
その通りだね。
映画ロゼッタ」を見ていない人のために
ちょっと解説すると、
ロゼッタは、アル中でもう人格が破綻しかけている母親を背負いながら、
必死に生きている少女ですが、
何かの理由で仕事を解雇されてしまいます。
失職したロゼッタに心をよせているのが、リケという青年で、
ロゼッタに自分と同じ路上のワッフル売りの仕事を
斡旋します。
しかしタイミング悪く、その仕事も社長の事情で
ロゼッタはまた失業してしまいます。
実はリケはこっそり自分用のワッフルを水増して作り、
その利益をふところにいれているのですが、
ロゼッタは、リケという初めての友達を得たと思いながらも
自分の職欲しさに、そのことを社長に告げ口をし、
リケは追い出され、その後釜にロゼッタが座ります。
しかし、リケは優しい、
ロゼッタに裏切られたにもかかわらず、
どうしてそんなことをしたのかと
ロゼッタにつきまとって聞こうとするが、
ロゼッタはこたえられないし、説明のつけようがない。
追い詰められたロゼッタはガス自殺しようとしますが、
そのガスもきれてしまい、代わりのガスボンベを運ぶ途中で
倒れてしまます。
その倒れたロゼッタをリケが抱き起した瞬間に
ロゼッタの中の何かが壊れ、
それまでは、
コンクリートのように渇ききったロゼッタの感情の割れ目から
涙があふれて来る。
リケはどちらかというと頭がいい方ではない、
どこか緩やかでおばかさんである、でも、
リケは優しい。
Aさんは、そういうリケに苛立つ。
なぜなら、Aさんの中には
ダブルバインドにかかっている自分があり、
それはまるでロゼッタのように
ガラスのように壊れやすい自分のその周囲を
強力に固いハードガラスでコーティングして、
砦を築いており、
そうそう簡単に、リケの優しさには応じられない
もう一人のロゼッタがいるからです。
先日「MIZUTAMA」の特集企画で、
ドストエフスキーの「罪と罰」の登場する人物たちを
日本の俳優でキャスティングするということがありました。
大変面白い企画ですので、掲載後は是非お読みいただければと
思います。
その時、参加者の中から興味深い質問をされました。
それは、
マルメラードフという敗残者が出てきます。
彼はひどいアル中の中、
生活苦のなかで
自分の娘が娼婦をして稼いできたお金さえ、
自分の飲み代に使い果たしてしまうほどの
クズ中のクズのおとこです。
そのためとうとう家族は破滅的に追い込まれてゆきます。
ただ、マルメラードフは優しいです。
底ぬけに気が弱く、
優しいのです。
そしてマルメラードフは馬車に曳かれて死んでしまい、
彼の妻カテリーヌは狂気を発して、
幼い子供を残して死んでしまいます。
質問は、それほどクズで破滅的な男と彼の妻が
どうして結婚したか、という質問です。
果たしてダルデンヌ兄弟監督が、
ドストエフスキーを読んでおられたかどうかは
分かりませんが、たぶん教養として読んでおられたと
私は思いますが。
私にはロゼッタとリケの姿が
マルメラードフとカテリーナに重なります。
生きることに、ほんとうに不器用な二人です。
さて今回このシリーズをかきはじめたのは、
人間の奥深い底にある懊悩について、
それをダブルバインドの観点から
解きほどいていきたいと思ったからです。
おそらく、
ロゼッタやAさんと同じように
ダブルバインドにかかり、
どうにも生きられない、
どう生きても、そこに否定と人間不信しかない
その海の中で、生きている人達に
私の遺言としても,書いておきたいと
思いました。
ゆっくり書きます。
なんとか言葉が届くように
わかりやすく、心をこめて書きます。
だから、少しずつ
読んでください。
