我が若き親友でもある村上浩康監督の映画 「東京干潟」を見てきました。 |
「東京干潟」を見てきました。
おもしろかったな~!
なにがって、
この映画に出てくる人間のドキュメンタリー性が
メッチャ面白いのです。
この映画を見て
人間の面白さを再度確認しながら、
その楽天性に私はとても元気を貰い、
愉快になりました。
ドキュメンタリー映画にありがちな
社会正義やヒューマン性を全部とっぱらっても、
映画の中の、
ホームレスのお爺さんの人間力はまぶしいくらいにまっとうなのが、
映像から溢れでてくる。
ここにごまかせない映像の力がある。
そもそも人間は、観念の虚構性の中を生きているが故に
現実に起きる事々は、悉くその予定調和を外れていく。
現実は何よりも奇異に屈折し、
偶有性の手品の中で
人間は、私達のインテリジェンスのフレームを
ヒョイと超えていく。
人間の紡ぎ出す世界がいかに
面白く、摩訶不思議で、時に奇怪なるものであることは
以前から村上監督と何度も話したことがある。
人間が作り出す<世>には
予測不可能な、或は、予定調和など、くそくらえという
魑魅魍魎が徘徊し、
そこには人間の<性>が錯綜し、
シャーマニズムやアミニズムの
謝肉祭的な呪詛や祝祭のダイナミズムがある。
この映画では、多摩川河口の干潟で
猫を養うためにシジミ採りをしている
ホームレスのお爺さんがいて、
その周辺にはまた、
ちょっと変で、位相の顔の人間たちが
トリックスターのように登場する。
シジミ採りのお爺さんのことを面白いなあ~とみていたら、
登場してくる人間達がみんな面白い。
立川から歩いて東京湾の干潟まで来た、一見文士風な白髪の紳士は
どんな人生を経てきたのだろうか。
その内面に対しての想像を掻き立てられる。
彼はこれから小屋を作って干潟にすみ着こうとする。
爺さんのことを
「この人はプロだよ」という、
シジミ採りの常連らしいおじさんも
どこか人を喰ったような風貌が面白い。
いかにも暇そうなこの人は、
何をしに干潟まで来ているのだろう。
映画の最後の方にでてきた、
一見粋にお洒落な服を着こなし、ちょび髭をはやしたおじさんも
帽子の上にタオルでハチマキをしていて、
何か変!!変だけど、オモロイ!!
干潟に集う人間それぞれの、
市民社会を少し外れた以外性が、
私の想像脳をかき回す。
そして共通するのが、彼らの楽天性で!!
いいね~・・・!
映画の背景としての
東京湾の干潟がどうの・・・とか
シジミの乱獲がどうの・・・とか
オリンピックの工事で干潟が壊されるとかの
様々な社会的な問題性を
映画から全部とっぱらっても
映画のお爺さんはの人間の面白さは
びくともしない。
そもそも
彼の内実こそが面白いからだ。
これは村上監督が
彼独特の嗅覚で、嗅ぎ出したあつめた人間群で、
それが村上さんの人間賛歌でもある。
そして特筆すべきは
ホームレスのお爺さんに保護されている
捨て猫たちのどれもが、
いわゆる可愛いペットではない。
ごろにゃんと人間に媚びる目ではなく
動物的本能が剥き出しの鋭い目つきで登場する。
彼らは昼ねをしていてもノラの猫である。
そしてその猫の姿がいみじくも、
映画が安直なヒューマン感情へ傾く甘さを突き放している。
自分が守るものとして、猫の存在をみつけた爺さんが、
猫がいるから自分が生きれると語るそのおなじ口で
実は餌をやる自分が逃げないように、
いつも猫に監視されている、という時、
猫達の自立が
生きものどうしが生きることの、厳粛な実相のカラクリとして
エッジを効かしている。
この映画を、逞しく生きる人間云々などど、私は言いたくない。
そういういかにもドキュメンㇼ―映画のセオリーのようなことで
この映画を評したくない。
シジミとりの爺さんは
どんな人間の中にもある人生の不条理を体現し、
どんなに時代が変わろうとも、
何処でどんな生き方をしようが、生きるこの自在さ、
彼の人生にエールを送っているのだから。
そこには、
時代や文明に翻弄されていそうで、されていない爺さんの根源的な生命力の
強さがあり、
爺さんの自由さや自在さにはかなわないのである。
人間は様々に仮想し、踊り交わり、人生は走馬灯のように
過ぎ去ってゆく中、
いきる人間とは、なんと傑作で痛快なのであろうか。
村上さんの映画はいつも、こういう人間のはつらつさや痛快さを
ベースに孕んでいる。
きっとそういう人間が好きなのだろう!!
台風が去った後の満ち潮の水が、どんどんお爺さんの住む小屋へと
迫ってくる中、彼はそれも面白いという。
現実はいつも凡庸を裏切り、
人間はいつも既存の観念の中からはみだす。
そこに<人間が生きる>というエンターテイメントがジャンプする。
そのことを熟知している村上さんならではの
作品になったと思う。
次回は「蟹の惑星」について書きますから、
これも是非読んでください。
どうぞ見に行ってください。