狂気の沙汰 |
今日も彼の指揮によるベートーベンの第九を聞いた。
演奏は、バイロイト祝祭管弦楽団及び合唱団のライヴ
最初の指揮者入場の時にものすごい拍手と共に
床を踏み鳴らす音が聞こえる。
それはオケの団員たちが彼を歓迎する行為で
いかに彼が団員達に信頼されているかだ。
録音時期は1951年第二次世界大戦が終結し
戦後の復興がなされている最中のドイツである。
曲の導入、あたかもこれから演奏に入る前のさざめきのような
ヴァイオリンの音から始まる。
宇宙の音のようだと評した人もいる。
そしてゆっくり曲が始まっていく。
私はいままでこんな悲しい第九の導入部分を聞いたことがない。
自分の深い虚無的な空間に音が忍び込んでくる。
かと思えば、
激しく激しくいよいよ激しく、狂気の中へと彼は突っ込んでゆく
妥協を許さず、これでもか、これでもかと。
私はひたすらベートーベンの感情の中に連れ込まれていく。
ヴァイオリンは貴婦人のごとく美しく
クラリネットは貴公子のごとくやさしい
何よりもティンパニーがすばらしい。
激しく強く弱く、近く雷鳴のように或いは
遠くに聞こえる葬送の太鼓のように、鈍く鋭く
低音楽器もすばらしい
私を取り囲んでしまう。要塞のように。
最初から最後まで心は掴まれっぱなしだ。
もう、かれと一緒に行くしかない
狂気の沙汰へ。
本当に狂気の沙汰に行けたらとおもう。
いや、
いきたいなあ。